本書は、「ヒッグス粒子」の解説書です。本書では、前提となっている宇宙の成り立ちや、そのほかのさまざまな素粒子などの話からはじめて、LHCというヒッグス粒子を発見した施設のことまで、できるだけ、誰にでもわかるように、やさしい文章と豊富な図版を使って、解説しています。
第1章 ヒッグス粒子とは何か
標準理論の泣き所--存在が仮定されていたヒッグス粒子
真空と質量に「なぜ」の目を向ける--その奥に潜むものは?
ニュートン力学を越えて--質量の起源を問う
真空はヒッグスの海である--ヒッグス粒子と質量の関係
唯一の仮説だったヒッグスメカニズム--標準理論を実証するために
ヒッグス粒子をたたき出す--ヒッグス粒子の観測方法
加速器とはどのような装置?--荷電粒子のエネルギーを高くする
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)--ヒッグス粒子を発見した加速器
激突する素粒子--より高いエネルギーを発生させる
史上最大の実験がスタート--LHCの稼動と故障
ヒッグス粒子を発見--LHCの再稼動と歴史的瞬間
当たった予測、外れた予測--多くの学者が考察したエーテル
ファラデーの実験--力はどのように伝わるか
ファラデーからマクスウェルへ--電磁力の担い手はエーテル?
マイケルソンの挑戦--エーテルに対する地球の速度は?
エーテルは存在しなかった--マイケルソン-モーリーの実験へ
第2章 質量について考える
質量と重さはどう違う?--外的な量と内的な量
質量は2つある!?①--天秤で測る「重力質量」
質量は2つある!?②--もう1つの質量「慣性質量」
質量は2つある!?③--運動が伴うときは慣性質量が主役
2つの質量は一致するのか①--物体に働く力の向きは?
2つの質量は一致するのか②--エートベッシュらによる実験結果
アインシュタインの思考実験--2つの質量の一致は偶然なのか
特殊な理論から一般的な理論の構築へ--相対性理論を作り上げた手法
見かけの力、慣性力--観測者によって現れたり消えたり
重力と慣性力は別物か--宇宙船内と電車内は同じ?
等価原理の提唱--重力と慣性力は等しい
慣性力の正体を求めて--運動を妨げる「抵抗」なのか
一般相対性理論へ--真理は単純で美しい
等価原理が予測した重力の性質--光は曲がる?
一般相対性理論の実証--重力によってゆがむもの
はじめに質量ありきが前提--より根源的な問いかけへ
質量の起源の解明へ--鍵はヒッグス粒子の発見
第3章 素粒子と4つの力
物質とは何か--多くの先人が挑んだ命題
原子の構造を観測する方法--「見る」ための一般的な手法
原子核の発見と原子モデルの発表--原子の構造の解明へ
隙間だらけの原子--原子を構成する3種の素粒子
反粒子の発見とその性質--粒子と反粒子の違いは?
陽子、中性子の内部を見る--電子をぶつける
クォークの存在を発見--陽子、中性子の中の3つの粒
ハドロンを作るクォークの組み合わせ--バリオンとメソンの構成
6つのクォークとレプトン--どちらも6つずつ存在する
自然界に存在する4つの力--重力、電磁力、強い力、弱い力
力はどのように伝わるのか①--ゲージ粒子を交換する
力はどのように伝わるのか②--電磁力と強い力の伝わり方
力はどのように伝わるのか③--弱い力と重力の伝わり方
ウィークボソンの謎--他のゲージ粒子と異なる点
第4章 ゲージ対称性とゲージ理論
古典電磁気学の歩み--ゲージ理論を理解するために
電気と磁気の19世紀--ボルタからマクスウェルへ
「場」とは何か--近接作用論から生まれた概念
電場の対称性①--電場の大きさと方向を考える
電場の対称性②--電場は回転対称である
電荷の対称性--電荷は内部対称性が成り立つ
大局的対称性と局所的対称性①--「global」か「local」か
大局的対称性と局所的対称性②--風船を例にして比較すると
局所的対称性の特質、力の発生--理論に局所的対称性を要請する
マクスウェルの電磁理論とゲージ対称性①--2つの場が必要
マクスウェルの電磁理論とゲージ対称性②--局所的ゲージ対称性を持つ
場の古典論から場の量子論へ--マクロからミクロへ
光子の質量はなぜゼロか--電磁力は無限大まで到達する
ウィークボソンの質量は?--ゲージ理論への歩みは途絶えるのか
第5章 ヒッグスメカニズム
対称性の自発的破れを磁石から考える①--温度による棒磁石の変化
対称性の自発的破れを磁石から考える②--対称性は覆い隠されたにすぎない
宇宙の開闢へと時間をさかのぼる--ウィークボソンが質量を持っていた時代へ
素粒子の質量を表す単位--エネルギーの単位「eV」を使う
相転移によって対称性が破れる--水の相転移を例に考える
初期宇宙で起こった相転移--宇宙は高温、高エネルギーで誕生した
ヒッグスメカニズム①--ヒッグス粒子が真空に凝縮する
ヒッグスメカニズム②--ヒッグス粒子と相互作用する
3種の素粒子の自転--素粒子のスピンを調べる
電磁力と弱い力の統一--ワインバーグとサラムの登場
ワインバーグ?サラム理論--食べられたヒッグス粒子
ウィークボソンの存在と質量を予言--統一理論の巧妙な戦略
統一理論の検証へ--加速器の複合システム、SppS
陽子と反陽子を衝突させる--ウィークボソンの観測方法
ウィークボソンの発見--統一理論の予言と一致
ヒッグス粒子は現れるか--SppSでの実験と結果
電子―陽電子衝突型加速器の建設--より高いエネルギーを求めて
まだ姿を見せないヒッグス粒子--LEPの実験と結果
第6章 ヒッグス粒子を求めて
標準理論の弱点だったヒッグス粒子--予測できないヒッグス粒子の質量
衝突させる素粒子の組み合わせ--電子?陽電子と陽子?反陽子
荷電粒子は磁場中で回転する--巨大化する加速器
荷電粒子の加速には電場が必要--電場の向きを変える
電子?陽電子型の特徴--光の衣がエネルギーを減少させる
最先端技術を用いたLHC--強力な磁場を発生できる
陽子?陽電子型と陽子?陽子型の違い--ヒッグス粒子発見への情熱
LHCの加速の装置と流れ--複数の加速器で段階を経て加速
ヒッグス粒子の観測方法①--ヒッグス粒子はすぐに崩壊する
ヒッグス粒子の観測方法②--質量分布に現れるシグナル
100億倍の邪魔者--莫大なバックグラウンド
天を支える巨人、アトラス--日本グループが関わる検出器